相続人の調査方法などにつき一般的な内容についてご案内しております。
相続手続きの第一歩は、相続人の調査です。
相続人の判断に誤りがあると、最悪の場合、せっかくまとめた遺産分割協議などが無効とされてしまう恐れがあります。
間違いのない相続人の調査が重要です。
相続人の調査は市区町村役場で戸籍を集めることにより行います。
相続人は妻と子二人だけです、などと口頭で申し出ても相続登記をはじめ銀行の手続きなど、どの手続きも受け付けてもらえません。
具体例を通して概要をご案内します。
<事例>
夫A・妻B・子Cの3人家族で、Aさんが亡くなったのですが、どのように相続人を調査・確認すればよいでしょうか。
<回答>
被相続人(亡くなった方)であるAさんの出生から死亡までの戸籍を集めます。
相続人は、現在の戸籍を用意します。
<解説>
上記の事例に基づいて、相続人の調査としての戸籍の集め方をご説明します。
まず、大切なことは「必要となる戸籍は1つではない」ということです。
これはとても大切な点です。
日常的な手続きで戸籍が必要となり取得するのは「現在の戸籍」です。
戸籍謄本とか全部事項証明書と呼ばれるものです。
その点、戸籍は一定の理由により作り変えられることがあります。
例えば、結婚をしたため親の戸籍から出た場合、転籍をしたため転籍をした先で新しい戸籍を作成した場合などです。
戸籍には親と子までしか記載できないので、婚姻をした際は配偶者とともに新しい戸籍を作ります。また、戸籍は各市区町村で作成するので、市区町村を超えて転籍をした場合は転籍をした先で新しい戸籍が作成されます。
このような場合には、現在の戸籍のほかに、婚姻前の戸籍や転籍前の戸籍が必要になってきます。
なぜなら、現在の戸籍には、その戸籍が作成された日以降の事柄しか基本的には記載していないからです。
つまり、婚姻後に作られた戸籍には、婚姻前に生じたことは記載されていないことがあります。
したがって、現在の戸籍より前の戸籍を取得していく必要があります。
では、事例とは少し違いますが、婚姻も転籍もしていなければ戸籍は1つで足りるのでしょうか。
結論から言えば多くの場合はNOです。
というのも、戸籍は戸籍に記載されている各個人の事情とは全く関係がないところで作り変えられることもあるからです。
例えば、これまで手書き・縦書きの様式で作成していたものを、コンピュータによる作成で横書きの様式に変更するといったような場合です。
この場合、戸籍に記載されている各個人とは関係なく様式を変更するために戸籍を作り変えることになります。
そして、これまでの縦書きの様式の戸籍は閉じられ、作り変えた日以降はコンピュータ化された横書きの様式の戸籍によって戸籍を管理していくことになります。
つまり、婚姻も転籍もしなくても、出生の際に作られた戸籍とは別に、様式が変わった後の戸籍が作成されることになります。
その結果、相続人を確認するためには、出生の際の戸籍と様式が変わった後の戸籍が必要になります。
この様式を変えることによる戸籍の作り変えは、その時代に合わせて何度か行われていますが、戦後では昭和32年と平成6年の2回大きな作り変えがされています。
なお、この作り変えのことを「改製」といいます。
以上のように、相続人を調査・確認をするためにはいくつもの戸籍を集めなければならないことをご理解いただけたかと思います。
事例のAさんが昭和10年・出生、昭和30年・結婚、平成10年・戸籍改製、平成15年・転籍、平成29年・死亡とした場合に、相続人の調査のために必要となる戸籍を図にしてみると次のようになります。
Aさんの相続人を調査するためには①~④の戸籍が必要になります。
①出生の際の戸籍です。親や祖父などの戸籍になります。
②Bさんとの婚姻により作成された戸籍です。後日Cさんが誕生しましたので、この戸籍に記載されることになります。
③様式変更による戸籍の作り変え=改製によるものです。Aさんとは関係なく改製されていますが、平成10年以降転籍をする平成15年までの情報は、この戸籍から読み取る必要があります。
④転籍後の戸籍です。この戸籍は平成15年以降の事柄が記載され、平成29年に死亡した旨も記載されます。
この①~④によりAさんの相続人は妻Bと子Cのみということが確認することができます。
<topic>
相続人がB・Cであることは最初からわかっていることで、なぜわざわざ手間をかけて戸籍を取得しなれければならないのか、よくわからないのですが?
確かにAさんはBさんと結婚されてCさんをもうけました。
一方、Aさんは結婚当時20歳です。もしかしたらBさんが知らない時代に結婚し、Cとは別の子をもうけたうえで離婚をしていたかもしれません。可能性としては低いのかもしれませんが、相続人を調査するとはそのようなことを意味します。
「そのようなことはない」ということも、戸籍を収集しなければ証明できません。
遺産分割協議など、相続登記に関する手続きは基本的に相続人全員によって行わなければなりません。そして、相続登記の申請の際も、その点が戸籍の記載によって審査されます。
したがって、当事者にとってはごく当たり前の確認となることが多いのですが、相続登記に際しては、出生から死亡までの戸籍を漏れなく収集し、相続人を調査・確認をする必要があります。
相続登記ではAさんの①~④の戸籍のほかに、B・Cの現在の戸籍が必要になります。
相続人となるには、生きていなければなりません。Aさんの死亡の際にすでに亡くなっている人はAさんの相続人にはなれません。
Aさんが亡くなった際には生きており、相続人であることを証するために相続人の現在の戸籍が必要になります。
なお、①~④の中に相続人の現在の戸籍が含まれていれば改めて取得する必要はありません。
この事例の場合、Bさんの現在の戸籍は④の戸籍です。つまり④の戸籍はあAさんの死亡を証するとともに、Bさんが相続人であることも証明しています。
一方Cさんは平成5年に婚姻のため、Aさんの戸籍から出ています。②の戸籍で除籍され、③の戸籍以降はCさん記載はありません。したがって、Cさんが存命で相続人であるかを証するために、Cさんの現在の戸籍(⑤)が必要となります。
したがって、この事例では相続人を調査・確認するために①~④と⑤の戸籍が必要となります。